母の死因

 母の死因を自殺と、私は読む。心筋梗塞による突然死だとすると、不自然なことが多すぎる。
・倒れて病院に運ばれたという母の姿が姉妹に隠されていた。
・杏は、母がのどを切って血まみれになっている場面を記憶している。杏の記憶が幻想だとしても、幻想を抱かせる、あるいは、記憶を改ざんさせるものがあったに違いない。
・理有は、ママの遺言を読んでいる。
ママのパソコンもスマホも、ママの遺言通りデータも含めて破棄してしまった。(最終回)
 理有は、杏に対して、母の死因を心筋梗塞と言っているが、遺言の内容から、母の死は覚悟の死であったことを知ったと、推測できる。

 母の自殺の夜の姉妹の行動

 姉妹は、母が自殺を図ったことに気づかなかったと、私は読む。何かを察したとしても、祖父母が来る前に、母の部屋に入ってはいないと考えられる。
 祖父母が駆けつけ、姉妹を母の部屋へ入らせなかったことから、杏は杏なりの記憶を作りあげたし、理有は理有なりの想像をしたと思う。
 その根拠としては、次のことがあげられる。
 ・母が血まみれになっていた場面は、杏の回想でしか描かれていない。理有からは、杏と合致する記憶は断片すら出て来ていない。
この人は、何を言っているんだろう。私は理有ちゃんの話す言葉に綻びがないか、必死に耳に全神経を注ぐ。(111回)
 ・結局、杏は理有の言葉に矛盾点を見つけることができなかった。

 なぜ、杏の記憶は、理有の記憶と違うのか。

 あの時救急車を呼んでいれば助かったかもしれないママのママが、私たちが意図的に発見を遅らせたと知ったらどう思うのだろう。理有ちゃんへの不信感と、ママが死んだ悲しみ、おばあちゃんへの申し訳なさ、自分自身の混乱。(略)私が頼れる人はもう、理有ちゃんしかいないんだと。(40回)
 杏には、理有と秘密を共有しているという状況が必要だった。理有が杏と秘密を共有している限りは、理有は杏の保護者であり続ける。杏は、感覚的にそうとらえ、そのために自己の記憶を無意識のうちに作り上げた。
 もしも、理有が嘘をついているとしたら、次のことに納得がいかない。理有の考えには、母の自殺を肯定する言葉も、母が思いを遂げる手助けをしたことに対する言葉もない。
 作者は、この作品に、自殺の肯定や安楽死に関わるテーマを持ち込んでいないと、私は読む。以前は、理有が計略として嘘をついていると推測したが、「遺言」が出て来てからは、母の自殺の幇助をしなくとも自殺を知りうると考え、推測を変えた。

 理有と亡き父とのパソコンでの会話

 杏から、母の死因について激しく反論、追及されても、理有は動じなかった。しかし、父との嘘のパソコンでの会話について指摘されると、理有は反論さえできなくなった。(114回)
 また、高橋が、父の病死を知らない、というのは不合理だ。
理有さん、お父さんとは連絡を取っていますか?」
「いえ」
「そうですか」
「なんでですか?」
 いや、と真面目な表情で首を振る高橋に、私は何故か、急激に怒りが湧いていくのを感じた。」(87回)

 ここから、高橋が、理有が亡き父とパソコンで会話していることを知っていた、と読むことができる。高橋が知っているということは、母がそれを知っていて、高橋に話したということであろう。
 このことからは、理有が母のために自殺を幇助するというイメージは、湧かない。それよりは、亡き母と亡き父にもう惑わされたくないという気持ちの方を感じる。