朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第11回2017/1/12

 権五郎は、ここまでの来歴を見ると命を恐れない武闘派だ。愚連隊上がりで、日本刀を持ち仲間の仇討ちに向かおうとする。だが、むやみに突っ走るだけではない。拳銃や薬物の密輸に手を染め、台湾のヤクザとも交流がある。宮地組の親分と手打ちをしたのも、義理人情だけでなく、損得勘定の上であろう。
 それに何と言っても、己を抑えることができる。

大親分が虚勢を張れば張るほどに、当の権五郎は恭しく拝聴し、(略)(3回)

 このような表向きの顔を見せる。役者半二郎に名前のことを言われた時にも、謙遜してみせる。(7回)
 その権五郎だが、座が騒がしくなると、いつまでも表向きの顔ばかりはしていないようだ。
 また、名前の由来が歌舞伎十八番からだから、権五郎は歌舞伎好きに違いない。その彼の前に、幕が張られた。そろそろ、この小説の主人公が登場するのか?それとも、権五郎が主人公なのか?