朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第25回2017/1/26

 登場人物の動きの描き方が巧みだった。
 辻村の動きになんとなく不信感を持たせる描写がなされていた。※前回の感想 

  辻村が権五郎を撃った現場を見ているのは、花井半二郎だけのようだ。
 その場の様子から、半二郎は、辻村の裏切りを全く予想していない。一方、辻村の裏切りは、計画づくのことだろう。おそらく、宮地の組員の殴り込みは、辻村が手引きをしたのだろう。
 辻村が生き延びると、権五郎殺しの張本人を知るのは半二郎だけになる。事件後、警察の捜査が入っても、宮地の組員にワルサーを渡し、宮地の一人を身代わりにすれば、事件は決着するだろう。
 どの場合を考えても、半二郎の立場は難しいものになる。

 ここまで考えて、大きな疑問が出てきた。
 どうやって二階に来たかは分からないが、辻村は半二郎を連れて来ている。
①二階に逃れて来た権五郎の部屋に、辻村と半二郎が駆け込んで来た。(23回)
②すっかり怯えきっている半二郎を、部屋に引き入れたのは権五郎だ。(以下24回)
③この部屋から更に奥の座敷に、半二郎を逃がしたのは辻村だ。
④半二郎の背後にいた辻村は、半二郎を払うと権五郎のいる部屋の襖を蹴破った。(以下25回)
⑤辻村が権五郎に向けて、ワルサーを二発撃った。

 辻村は、半二郎が見ていることを知っていて撃った。これは、仕方なくそうしたのか、それとも、別の狙いがあるのか。

 また、半二郎は、偶然この場に居合わせたというだけではない。半二郎は、辻村の元の親分で愛甲会を興した熊井勝利とはかなり関係が深かったようだ。権五郎の名前の由来(7回)なども、熊井から聞いていたと思われる。
 
 半二郎は、喜久雄を助ける役回りと予想していたが、そんな単純なことでは済みそうもない。