朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第26回2017/1/27

 オリンピックが二か月前というのだから、昭和三十九年の大晦日、つまり、権五郎が撃たれた時から一年が過ぎようとしている。
 喜久雄は、春江の家に転がり込んでいる様子だ。その春江の家の貧しさが描かれている。
 権五郎の生死は、はっきりとはしていないが、辻村に撃たれて絶命したと思う。親分を失えば、どんなに栄えていた組も壊滅状態になる。喜久雄は、殺されこそしなかったが、父が盛んな頃の贅沢や大っぴらな行動はできないはずだ。
 立花組が潰された状態だとすると、喜久雄がこうやって長崎にいることができるのは、誰か援助してくれる人がいるのかもしれない。