朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第27回2017/1/28

 階下へ降りる時の靴下、タバコの銘柄、はしごのような階段、貧しくてすさんだ暮らしぶりを、見事に描いている。
 喜久雄は、春江の母に厄介者扱いされていることが分かる。中学生の分際で、娘の男であり、しかも転がり込んでいるとしたら、当然だろう。
 羽振りの良い極道の親分の一人息子として、「坊ちゃん」扱いされ、好き放題にしていた喜久雄の激変ぶりが伝ってくる。
 もしも、喜久雄が「坊ちゃん」のままだったら、父とは違って何の苦労もしていないので、任侠の道へ入っても、鼻持ちならない極道にしかなれなかったであろう。
 どんな分野でも、甘やかされて育った二代目は、大成しないことが多い。そして、それは長い目で見れば、二代目本人の不幸でもあると思う。