朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第31回2017/2/1

 喜久雄と徳次は、心の内はどうであれ、父であり親分であった権五郎が死んでからも、以前の好き放題の生活に戻っていた。
 また、徳次は殴り込みの時のこととは別の件で、鑑別所送りになっていたらしい。映画館でのことは、立花組の落ち目が中学生のワルにまで知れ渡っていたということなのか。
 
 今までのストーリーでは、権五郎がどの程度歌舞伎に入れ込んでいたかが分からない。女房マツと同じくらいの芝居好きだったとしたら、それはどこでそうなったかが疑問だ。
 さらに、喜久雄のことがだんだんと描かれてきたが、遊女墨染の役を見事に踊り切った要素がまだ見えない。集中的に仕込まれたとしても、幼少から日本舞踊でも習っていない限りは、半二郎を感心させる踊りができることには無理がある。むしろ、付け焼き刃であっても、徳次の方が納得できる。徳次は、生来の器用さと高い身体能力を持っていそうだ。