朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第34回2017/2/4

 小説の文章には出てきていないが、徳次は、権五郎親分の恩を心から感じていたと思う。そうでなければ、ここまで喜久雄を守ろうとはしないはずだ。
 十六歳であるが、今までの徳次の人生は過酷であった。それだけに、自分のことだけを考えれば、親分を失い落ち目になった立花組をいち早く見限っていただろう。そうしなかったのは、喜久雄と気が合うというだけでなく、喜久雄の父、権五郎親分の恩に報いる義理を通したのだと思う。
 喜久雄は、腑抜け息子に描かれているが、それと違う面も見せている。
 徳次が鑑別所送りになった理由を、警官を殴ったと、春江に言っていた。(31回)これは、徳次がニッキの譲治にさんざんやられたことを隠してやっているのだろう。
 また、ミミズクの絵柄の刺青を入れようとしていたことに、喜久雄の考え方が描かれていた。

(略)ミミズクという鳥、一度、恩を受けた人間は決して忘れないと言われているのであります。(20回)

この話を春江に聞いたとき、喜久雄は胸が熱くなりました。(略)このミミズクの気持ちこそがこの世で最も尊ぶべきものだと思えたのであります。(20回)


 この二人は、今までの行動とは裏腹に義理を大切にする心をもっているのではないかと思う。
 
 この二人、春江と春江の母には聞かれたくない話を寒い一階でしていそうだ。