朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第回2017/2/3
第一話 えりちゃんの復活⑤

あらすじ
 試合は、両チーム得点なく、ハーフタイムに入った。えりちゃんは、富士の選手について細かい動向を話せるほどになっていた。ヨシミは、イエローカードをもらった鶚のキャプテンに自覚をうながしたいほどだった。このことから、鶚に勝って欲しいと思っている自分に気づき、愕然とする。
 試合は後半に流れが変わり、オスプレイ嵐山(鶚)が得点し、そのまま一点を守って勝利した。ヨシミは、大騒ぎする観客の中で、自分はこのチームに引き分けではなく勝って欲しかったのだと、気づいた。
 えりちゃんは、CA富士が負けても、このチームを応援し続ける気持ちに変化はなかった。そんなえりちゃんを見て、ヨシミは、学校へ行けなくなっていた彼女を、ここまでサッカーを楽しめるようにさせてくれたCA富士というクラブに感謝する気持ちになった。

感想
 応援したいと思う人ができた。外に出て、大声を出せる場所が見つかった。えりちゃんが、復活できたのは、この二つだと思う。
 えりちゃんは、以前のままだったら、大学での人間関係を変えることはできなかっただろう。えりちゃんが大学での周囲の人の考え方を変えることは、容易にはできない。そうかといって、えりちゃんが、周囲の人たちと同じような感覚になることも難しい。そうなると、孤立するか、自分の本心を徹底的に隠して生活するかしかない。
 えりちゃんは、大学以外で、他の人に関心を持つ場を見つけた。さらに、スタジアムでサッカーの応援をすることで、自分の感情を思う存分発散することができた。応援するチームがあり、時々スタジアムに行くことができれば、大学での人付き合いは、表面的なものでもかまわなくなったのだと思う。
 学校や職場で人間関係に行き詰った場合に、好きなサッカーチームをつくり、応援するのは、効果のある方法だと感じた。
 他人に関心を持ち、好きになった人を応援するのは、自然でしかも生きることを楽しくする感情だ。応援する対象が個人にとどまらず、チームとなれば、応援する方の楽しさはますます増す、と感じた。

 ヨシミは、えりちゃんの応援行動よりも、深い所を望んでいるような気がする。そのチームを好きになるというだけでなく、応援するチームの成長と勝利を望むようになっている、と感じる。