朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第36回2017/2/6

 煙草の空き箱で作った傘、覚えがあるなあ。どこで、見たかは忘れた。いや、昭和の頃の居酒屋か寿司屋だった。居酒屋と言っても、チェーン店などではなく女将一人でやっているような居酒屋だった。

 徳次の無鉄砲さにもなんとなく親しみを感じる。
 変な連想だが、徳次と同年代は、現実では全共闘世代と重なりそうだ。
 刑務所での脱走は無理だが、鑑別所となると可能性があるかもしれない、と思わせられる。このような設定をされると、うまくいきそうもない徳次の敵討ちの話が、現実味を帯びて聞こえてくる。

 喜久雄が何を思っていて、どんなことを言うか、それを待たされる回が続いている。