朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第45回2017/2/16

 この教師は、厳しいけれど心配もしてくれている、と思いたい。が、尾崎という教師は、普段から喜久雄をヤクザの息子ということで毛嫌いしているだけのようだ。
 喜久雄を取り巻く大人たちと春江のことを見直すと、彼の環境は厳しい。
 父は、喜久雄のことを嫌ってはいなかっただろうが、本人の将来を真剣に考えてはいなかった。後妻のマツは、親身になって育てたが、自分の芝居好きを押し付けていた。彫師の辰は、中学生なのに金を払えば刺青を入れる。気の合う徳次は、命を落としかねない敵討ちに誘う。春江は、立花組が落ち目になっても離れないが、平気でポン引きをさせている。
 喜久雄の周囲は、とんでもない人ばかりだ。
 だが、本当にそれだけだろうか‥‥

 春江は、喜久雄より少し年上かと思っていたが、まだ中学生なのか?春江の母は、ちっぽけではあるが、スナックをやっている。それなのに、娘に身体を売らせるということはよっぽどの事情があるのだろう。
 春江と喜久雄が今の関係になったのには、何かが隠されているのか?
 
 喜久雄を殴ったのは、立花組に敵対するヤクザや中学生のワルではなく、喜久雄の先生だった。これが、喜久雄のこれからへのきっかけになりそうだ。