朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第50回2017/2/21

 喜久雄が敵討ちを心に決めたのは、権五郎の臨終の時と読み取れる。そうなると、周囲の皆と徳次を完全に欺いていたのだ。しかも、決行の手順については、冷静に計算している。

この一年、喜久雄はじっとこの瞬間だけを待っておりました。

ここから壇上まで五メートルほど、駆け出しながらドスを抜いて、壇上に飛び乗るまでに一、二秒。

 
この展開は、予想できなかった。だが、親を殺された十五の息子の一途さは伝わってくる。喜久雄の真情は作者の胸の内にあり、まだそのほとんどが読者には語られていないのだと思う。
 不審なのは、一年前から心に決めていたのに、直前にドスを盗んいるらしい(49回)ことだ。それと、前回の感想にも書いたが、学校に行っていなかった彼が、宮地が学校に来ることをどうして知ったかだ。尾崎から聞かされたのか?

 尾崎は、喜久雄の動きを見て、自分を刺しに来ると思ったのではないか?