朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第53回2017/2/24

 過去の事実が虚構の中に織り込まれてくる。昭和という時代を舞台にした歴史小説の雰囲気が漂ってくる。歴史上の事実といっても、国際情勢や日本の政治が取り上げられているわけではない。もっぱら、文化面だ。文化面の中でも、芸術と呼ばれる分野ではなく、大衆芸能の領域のようだ。
 
 43回では、長崎を題材にしたヒット曲を取り上げている。大ヒットではあるが、明るさや派手さとは無縁のスター歌手たちと思う。

高橋勝とコロラティーノ 青江三奈 瀬川瑛子 内山田洋とクールファイブ (43回)
 
 今回は、渥美清と映画監督(瀬川昌治と思われる)が取り上げられている。この映画監督瀬川昌治については、名前さえ知らなかった。だが、業績を見ると、テレビドラマなどで私も楽しませてもらった監督、演出家であった。ただし、この映画監督も国際的な賞を得るような業績はないようで、庶民の娯楽のために力を発揮した方であるらしい。
 渥美清の寅さんについては、語られ尽くしていると思う。ただ、寅さんシリーズを観るたびに思うのは、寅さんの周辺の人々は、当時の経済発展と脚光を浴びるような文化から取り残された人ばかりだと感じる。

 喜久雄が乗った列車はたとえ安価な席でも、集団就職で都会に向かう田舎の中卒者が乗るような列車ではなかったと思う。外見は、中学校卒業したての少年でしかない喜久雄に、この列車旅でもドラマがあるのだろうか。