朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第55回2017/2/26

 呆然とさせられる。
 尾崎が宮地に、今回の事を警察沙汰にさせないための話をするだろうとは思った。しかし、まさかこんなことを耳元で囁くなんて思わなかった。

「親分さん、ここは美談にしませんか?」

 これでは、尾崎はヤクザ嫌いどころか、ヤクザ顔負けの取引の仕方ではないか。やり方は途方もないが、目的は、喜久雄のことを考えてのことであろう。
  
 尾崎のような雰囲気を持った教師は、この時代には実際にいた。もちろん、昭和の学校にも、尾崎とは全く別の雰囲気を持つ教師の方が多かった。しかし、現代では、尾崎のような教師はフィクションでも存在しないと思う。