朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第64回2017/3/7

 番頭の源吉という人物、粗忽で調子のいい人なのか、気のきく働き者なのか、まだ分からない。どちらにしても、喜久雄と徳次にとって、大阪での生活はこの番頭の言うがままになっている。


 振り返ってみると、第一、二章では極道の世界が描かれていた。
 権五郎は、旺盛な力と大勢の子分を持ちながら、裏切り者を見抜けなくて、あっけなく殺されてしまった。だが、立花組は落ちぶれても、権五郎は立派な親分だったと語り継がれるだろう。
 辻村は、陰の実力者としてますます力を伸ばし、九州のヤクザのトップにのぼるかもしれない。だが、裏切りが露見せずに、組を大きくしても、権五郎のように親分として慕われることはないだろう。
 宮地の大親分は、抗争の度に自分の組の力を落とし、ついには組を解散させてしまった。だが、評判を落としながらも、表の世間との繋がりを持ち、その地位を保っていきそうだ。喜久雄に襲われた時の始末のつけ方も、自分の体面だけを考えた行動であったが、損にはならなかったのだろう。
 極道の表と裏が見えてくる。そして、この三人の在りようは、他の社会の縮図でもある、と思う。