朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第69回2017/3/12

 喜久雄の人物像は、短い会話を通して伝わってくる。
①新年会の舞台後の徳次との会話。ヤクザの親分の一人息子が背伸びをしている姿を感じた。
②鑑別所から逃げて来た徳次との会話。それまで見せなかった意地の強さを持っているのかもしれないと感じさせる。
③大晦日の夜、春江の母にかけた言葉。母という存在への優しさを感じさせる。
 そして、今回は半二郎の妻幸子との会話。他のどんなことよりも、稽古と義太夫に興味をもっていることを感じさせる。

 改めて訊かれますと返事に窮しますが、もちろん嫌いではありません。

 思わずそんな言葉が口をついて出てくるあたり、やはり好きか嫌いかといえば、義太夫節が好きなのでありましょう。

 喜久雄の義太夫節好きがずいぶんと慎重な書き方で示されている。