朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一第74回2017/3/17

 義太夫と人形浄瑠璃の兼ね合いがほんの少しだけ分かってくる。こうやって、読んでいくと、世の中には知らないことが多い。知らないことが多いというよりも、知っていることがない、と言った方が早い。
 喜久雄と徳次が属しているヤクザという集団についても、わからないことが多い。ヤクザは、一度組員になると抜けるのが大変だと聞いている。喜久雄の育ての親のマツは、生みの親の千代子の言葉通り「喜久雄をヤクザにだけはさせたくない」と言っていた。そうなると、喜久雄はまだヤクザ、組員ではないということだろう。徳次の方は、今でも立花組の組員ということになるのだろう。この小説のストーリーには関係ないだろうが、そんなことも気になる。



「触るな」

 と、払いますが、その腕に力はございません。

 俊介のこの態度は、力尽きているのか、それとも、徳次のしたことを嫌がっていないからか?

「そやろ。あんたは完全に声変わり終わってるわ。でも、この二人はまだやねん。ほんまはな、喉休ませたほうがええねんけど、使わんと鈍るしな。この時期が役者には一番やっかいやわ」

 鶴太夫は、喜久雄と徳次を、役者の子か、役者の弟子と勘違いしているようだ。