朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第80回2017/3/23

 徳次がいなければ、喜久雄の新年会の踊りはできなかった。徳次がいなければ、喜久雄が半二郎の家に馴染めなかった。喜久雄が、半二郎にその資質を認められたのは、徳次の存在抜きには語れない。
 
 立花組の若頭に拾われなければ、徳次は喜久雄とは会えなかった。番頭の源吉がいなければ、徳次がこんな風に半二郎の家に溶け込めなかった。
 
 人と人との関わりが、人の行く末を定めていく。『国宝』の軸の一つは、ここにありそうだ。