朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第83回2017/3/26

 マツからの仕送りのことを読んで、マツの気持ちを次のように感じた。

 マツは、千代子が生きているうちから権五郎と夫婦同然になりましたが、それは自分から望んだことではありませんでした。当時のマツは、権五郎の強引さに逆らうことができなかったのです。
 それでも、マツは病気の千代子にはいつも済まないと思っていました。千代子が亡くなってからも、千代子への気持ちもあり、喜久雄を大切に育てました。幸か不幸か、マツに子はできませんでした。
 権五郎亡き後も、マツは喜久雄を立派に育てることが自分の役目だと心に決め、千代子の唯一の願いだった喜久雄をヤクザにしないということを成し遂げようと思いました。また、喜久雄が幼い頃から、芝居に興味を持ったことも、喜久雄を可愛がる気持ちを強くさせました。というのは、マツの唯一の楽しみは芝居見物だったからです。
 落ち目の立花組で、仕送りの金を工面することは並み大抵のことではありませんでしたが、なんとか金を作り仕送りを続けました。また、マツは、組の人間の中では、徳次になぜか親しみを感じていました。そこで、徳次を大阪へのお供につけたのでした。