朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第84回2017/3/27

 喜久雄は、稽古がおもしろくてたまらないのだろう。今までは、観客として観ていた舞台を役者の立場でやれる。しかも、きっと喜久雄は飲み込みがよく、俊介と同じ稽古についていくことができているのだろう。いや、ついていくどころか、俊介よりも自分の方が上達が早いと思い込んでいるのかもしれない。
 しかし、喜久雄は、役者修行を始めてから数か月だし、俊介とはそもそも生まれが違う。その内に、俊介との決定的な違いを突き付けられる時がくるに違いない。