朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第回2017/3/28

 喜久雄と俊介は、まるで兄弟のようだ。同い年だから、双子のようなのかもしれない。喜久雄が、俊介を「俊ぼん」と呼んでいるのは皆がそう呼ぶからか、それとも、自分を下だと意識しているからだろうか?
 喜久雄は進んで大阪弁に馴染もうとしているから、もう長崎にも立花組にも未練はないのであろう。

二人が二人して、男が女を真似(まね)るのではなく、男がいったん女に化けて、その女をも脱ぎ去ったあとに残る「女形」というものを、本能的に掴(つか)めているのでございます。

 半二郎のもくろみ通り、喜久雄と俊介はこれ以上望めないほどのライバルになっているようだ。疑問なのは、喜久雄がどのくらい俊介に追いついているかだ。喜久雄が長崎で習った舞踊は、しょせんは素人の域を出ないと思う。それとも、喜久雄には稀に見る女形としての才能があるとでも言うのだろうか。

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 挿絵の自転車が不思議だ。