朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第86回2017/3/29

 歌舞伎の家に入ったら、たとえ、急に預けられた身だとしても、そのしきたりは分かってくるのだろう。稽古と高校は一緒でも、俊介は二代目花井半二郎の御曹司で、喜久雄は全くの素人の出だ。二人の差は歴然としている。今回で説明されている部屋子になれればその差が狭まるのだろう。

 大阪に来て一年が過ぎた喜久雄にとって、半二郎は師匠であり、絶対的な存在だ。また、俊介とは友達のように口をきいているが、役者としての差は二人の今後に様々な影響を与えるに違いない。
 喜久雄を取り巻く人間は花井の家の者だけでない。徳次と春江も大阪にいる。今の喜久雄は、大阪で順調な生活をしている。だが、呼び寄せた春江の動向によっては、喜久雄の今の順調な生活が続かなくなるような場面があるのではないか?