朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第12回2017/3/24 第3話 三鷹を取り戻す①

あらすじ
 中学生の貴志は、地元のサッカークラブ三鷹を応援している。三鷹は、ロスゲレロスという名前が変だし、弱かったので同級生で三鷹を好きだという者はいない。そんなわけで、貴志は自分が三鷹を応援していることを隠して、一人でスタジアムに足を運んでいた。
 三鷹は、二部に昇格したその年に、また三部に降格する。この結果に貴志は、自分でも驚くほど落胆する。三鷹が三部に降格してからは、以前よりももっと三鷹のことを学校では話さないようにしている。
 そんな中、ポスターがきっかけとなって、保健室の高山先生が三鷹の選手について詳しいことを知るが、貴志はその先生にも自分が応援していることを話さなかった。
 高校生となった貴志は、海外のサッカークラブに興味を持ち、三鷹のことを気にすることもなくなった。

感想
 強くて人気のあるクラブを応援するのに理由はいらない。サポーター仲間も多いので、その中の一人として、皆と一緒に騒いでいればそれでよい。弱くて、不人気なクラブを好きだと言えば、おかしな人だと思われる。それだけでなく、仲間はずれにされることもある。だから、貴志が中学校では自分の気持ちを隠していたことはよく分かる。
 もしも、貴志が同級生の多数に反対して、三鷹にもいい所があると言えばどうなっていたか。自分の気持ちに嘘をつかなくて済むが、それが原因で学校生活が過ごし辛くなることもあったろう。応援するサッカークラブのために、仲間はずれにされることはないと考えて当然だ。
 こういう風潮を、当たり前のことと受け取っていいのだろうか。
 もしも、先のWBCで、日本人でありながら日本以外の国を応援したら、その人はどう思われるだろうか。WBCは、それぞれの国の選抜選手によるベースボールの試合だ。野球というスポーツとして、自国以外のチームやプレイヤーを好きになり応援する人がいてもよいのではないか。現実には、そういう人は、偏屈な変わり者と片付けられるだろう。 
 何にしても、世の中がどちらか一辺倒になり、少数者がビクビクするのは、その社会が健全でない方へ向かっているサインだと思う。