朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第90回2017/4/2

 結婚の相手として、どんな男性をよいと思うか、という女性に対する問いを、アンケートやインタビューで時々耳にする。そうすると、よいと思える男性の性格や容姿を答える女性が多い。更に、自分のことを愛してくれることを前提としてあげることが多い。これが条件ということは、夫に煩わせられない妻であり、精神的に安定した家庭の専業主婦という理想像があるのだろう。そして、本音では、夫の社会的な地位はさして問題ではないが、経済的には標準よりも高い家計費を得たいという要求もあるだろう。これは、女性だけでなく、男性側もほぼ近いものがあると思う。
 
 市駒の条件は、「人気役者」という一点と、芸妓の自分を「二号さんか三号さん」にしてほしいという要求だった。これは、聞かされると驚くが、人気役者の二号という位置は、芸妓の将来の身の振り方としては理想的とも言える。
 一方の喜久雄の方も、市駒のこの言葉を聴いて、役者としての精進に熱が入ることになりそうだ。

なぜかこの市駒と一緒におりますと、自分が一回りも二(ふた)回りも大きくなったように思えてまいりますから不思議でございます。

 喜久雄のこの気持ちは、春江を好きなことと矛盾しないように思うが、どうであろうか?
 京都の夜は、火遊びどころではなくなってきた。