朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第93回2017/4/5

 歌舞伎役者としてよい役に得るには、先輩の名優から認められることが必須の条件と聞く。それは、歌舞伎には、監督や演出家という存在がないのが理由の一つだと言う。
 歌舞伎の女形の身のこなしは、極めて特殊なもので、文字通り頭のてっぺんからつま先まで、神経を張り詰めなければならないとも聞く。
 
 女形の才能があると半二郎に認められている俊介と喜久雄だが、二人それぞれに見えている万菊は、別人のようだ。

 救いを求めるように俊介へ目を向けますが、彼にはまったく違う万菊が見えているらしく(略)

 喜久雄は、万菊の視線と手に、釘付けになっている。
 万菊は、一瞬にしてこの二人が自分のどこをどう見ているかを察知するのではないか。