朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第93回2017/4/8

 長崎からの出稼ぎの人が集まる店、そこで働く春江。春江の保護者気取りの徳次。どうやら、春江に惚れたらしい弁天。
 大阪の場末の様子が伝わってくる。そして、この三人がその場所に馴染んで生き生きとしているのを感じる。
 ここと、別の世界に進もうとしているのが、喜久雄なのではないか。厳しい稽古や劇場への出入りだけでなく、会う役者やごひいき筋の人々、更には、遊ぶ所までが今までとは違ってきているであろう。
 喜久雄は、俊介のような歌舞伎役者の御曹司の立場を見せられて、そういう場に自分も立つことができると夢想すると思う。そういう思いに駆られれば、市駒のことは別としても春江に会う回数も減ってくるだろう。