朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第103回2017/4/16

 すばらしいことだと感じる。
 初舞台で、これほどの「恍惚感」を味わうのは、役者になることを運命づけられているのだ。
 次の表現に注目した。

(略)さっきまで自分がいた舞台の床の感触や、はっきりと一人一人が見えていた見物の顔、そして何よりも舞台に漂っていた香の甘い香りが蘇りまして、(略)

 
無事に舞台を終えた安堵感でも、初舞台が好評だったことでもない。舞台に立つことの喜びを純粋に感じているのだ。
 そして、ほぼ二年間の、踊りを骨で覚えるという激しい稽古と、見ているだけで気が違いそうになる繰り返しの稽古の末の初舞台の「恍惚感」なのだ。