朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第117回2017/4/30

 稽古に打ち込む喜久雄の姿が美しく描かれている。
 喜久雄がこうやって稽古に打ち込んで過ごした陰にはマツの必死の仕送りがあった。その仕送りが無理なものになっているのを半二郎は知っていたであろう。マツの困窮ぶりを知っていながら、それを黙っていたのは、半二郎の喜久雄への心遣であったろう。
 喜久雄が南座で主役を張ることになった今、半二郎は喜久雄にマツの現状を知らせてもよいと考えたと思う。

 半二郎は、喜久雄の師匠、「旦那」であるだけでなく、喜久雄本人の知らないことをまだまだ知っているという役回りでもある。