朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第122回2017/5/5
 
 一人の劇評家の言葉で、興行会社の社長が動いた。一か八かの賭けのような南座での出演だった。初日が終わると一日にして、爆発的な人気になった。
 花井半弥と花井東一郎の役者の名がどのように、世間に知れ渡ったかが描かれている。
 人気が沸騰した裏には、花井半二郎の二人の才能と見抜く眼と厳しい稽古があった。それにしても、地道に舞台を積み重ねて得た人気とは違っていると思う。ここでも、運に操られる喜久雄の姿が見えてくる。
 人気の恐ろしさは、俊介の方が教え込まれていると思う。喜久雄は、稽古と舞台以外の芸能の世界のことを何も知らない。人気が高まれば、喜久雄の周りの多くの人々は、今までとは違う顔を見せるに違いない。そして、徳次、春江、市駒、それぞれが喜久雄の人気によって人生を変えられるのではないか。
 喜久雄は、己の人気をどう受け止めていくのか?
 
 南座の初舞台前の緊張からようやく解放されたが、次の展開にまた緊張する。