朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第124回2017/5/7
 
 歌舞伎の世界には、うまい役者、いい役者、と呼ばれる人は何人もいる。そして、そういう一流と認められる役者は、歌舞伎をよく観る観客には知られている。
 ところが、私のように歌舞伎を観たことのない者が、歌舞伎役者の顔と名前を知るのは、専らテレビやラジオや映画を通してだ。123、124回から、どういう役者が、歌舞伎を観ないような人々にも知られていくのかが、よく分かる。
 要するに、人気なのだ。そして、その人気は、興行会社やマスコミによって作られていく。本人に才能と実力があり、その才能と実力を売り出していくプロデューサーがいて、スターが誕生することが描かれている。
 人気が優先するスターは、スターとしての時期が短いと言われているし、それは当たっていると思う。一時期の人気者で終わらないためには、本人が実力を磨くことと、周囲の人々がいかにそのスターを支えていくかが重要なのであろう。
 前回で、語り手は次のように言っていた。

 尚、まだまだ若い二人でございますから、浮かれるなというほうが無理なこと。

 この二人に人気に溺れるな、と言っても無理であろう。特に喜久雄の方には、歌舞伎界以外の人間関係がある。その上、喜久雄には半二郎が貯めておいてくれた大金がある。ドラマが展開するタネに事欠かない。