朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第125回2017/5/9

 語り手が、徳次のことを丁寧に扱っている。それほどこの物語の中で徳次は主要な人物なのだ。
 徳次が北海道から帰って来たことだけが、描かれているのではない。徳次は、大部屋ながら役者に戻っている。しかも、その大部屋を仕切っている。その上、喜久雄と俊介に対して、親し気な口を利いている。
 次章から、また新しい物語が語られる。
 その物語で、出てくるであろう登場人物を思い出し、その後を想像してみよう。
 まずは、徳次。
 北海道で大成功はしなかった。しかし、今までにない経験を積んできた。昔のように、警察から追われるようなことはしていない。ただ、金には困っているのかもしれない。
 春江。
 スナックで大いに稼いでいる。しかし、喜久雄はあまり会いに来てくれなくて、そのことが不満だ。
 市駒。
 喜久雄が彼女のもくろみ通り、人気役者になって、ますます喜久雄をつかまえて離さない。喜久雄の方も春江を捨てたわけではないが、市駒へ入れあげている。
 竹野
 三友の社長から、俊介と喜久雄の新しい出演機会を見つけるように命じられる。喜久雄とは、反発しあいながらも、歌舞伎に留まらない活動の場を開発していく。
 
 徳次は、人気スターの俊介と喜久雄を良くも悪くも支えるのではないか。
 春江と市駒は、どこかでぶつかるのではないか。
 竹野は、喜久雄を歌舞伎以外の活動へ引っ張りだすのではないか。

 次章への期待が膨らむ。