朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第137回2017/5/21

 喜久雄と俊介が、スターになれたのは、地方巡業で二人が「二人道成寺」を演じ、それが劇評家の目に留まったからであった。二人が「二人道成寺」をやれたのは、半二郎が若手活躍の場のための地方巡業を行ったからであった。
 俊介が、大抜擢で半二郎の代役をやるとなれば、それはもう半二郎の事故ゆえである。

(略)こうなった今となりましては、半二郎に虫の知らせがあったとしか思えぬほど、『曽根崎心中』という戦後の関西歌舞伎を代表する当たり狂言の稽古を、二人に一から叩き込むつもりで毎日見せていたのでございます。

 
「二人に」ということは、喜久雄にも可能性があるということか?
 俊介には、血筋という何よりの強みがあり、観客の同情をひく効果がある。喜久雄には、熱心さと興行的な意外性があると思う。