朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第139回2017/5/23
 
 俊介は、地方巡業で前の晩に飲みつぶれて舞台に遅れそうになったことがあった。『二人道成寺』で人気が出ると祇園での遊びも一段と増えたようだった。
 喜久雄は、地方巡業の頃から舞台一筋のようだ。観客が少ない時でも、その少ない観客を自分の芸で酔わせようと思っていた。また、人気が出てからも稽古をおろそかにするような様子は描かれていない。
 稽古と舞台に対する熱心さでは違いがあった。だが、だからと言って、俊介と喜久雄の間で、はっきりとした芸の実力の差が出ていたのであろうか。少なくとも、今までの流れからはそれを読み取ることは難しいと感じる。
 半二郎は、どんなことを考えて喜久雄を代役に指名したのであろうか?