朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第17回2017/4/28
第4話 眼鏡の町の漂着①

あらすじ
 
香里は、一人で鯖江アザレアSCの最終節の試合に向かっている。マスコットキャラクターを見たり、知り合いのサポーターと声を交わす。しかし、香里がスタジアムに来るのは、鯖江を応援する目的だけではなかった。
 香里は、吉原さんという男性と付き合っていた。吉原さんとは、一緒に食事をしたり映画に行ったりしてうまく行っていた。そして、吉原さんの地元の鯖江の試合を観戦に行くことも二人の習慣のようになっていた。
 ところが、約九か月前の今シーズンの開幕戦を二人で観に行く約束をしていたのに、何の連絡もなく吉原さんは来なかった。それ以来、吉原さんとは会うことはおろか連絡さえ取れなくなっている。香里は、消えてしまった吉原さんを捜す目的もあって、一人でスタジアムへ通っている。
 そんな香里の乗るスタジアムへのバスの隣の席に見知らぬ男性が座った。

感想
 
第4話は、今までと違ってミステリー仕立ての雰囲気がある。突如消えた好きだった男性を見つけるために、サッカースタジアムに通っている。そういうと、何か悲壮感が漂うが、主人公の様子はそうでもない。一人で来るようになっても、香里はサッカー観戦をけっこう楽しんでいる。
 第1話から共通しているが、登場人物はサッカークラブを応援することに熱心ではあるが、それにのめり込んでいたり、なによりも優先しているということがない。どこかで、冷めていて、応援する自己を客観的に見つめている所がある。
 今回の香里も、どうしても吉原さんを見つけたいかというと、それほどの強い感情は感じられない。香里は鯖江を応援しているし、そのチームのグッズを好きなことには間違いないが、それが他人の関心を呼ばないであろうことも意識している。
 これは、単にサッカーのサポーターに限らないであろう。何かに熱狂して、それに同調してくれる他人がいても、そこにはある限界があるということを互いに知っている、今の世の中の一面だと思う。