朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第141回2017/5/25

「(略)人ん家(ち)に入り込んで、一番大切なもん盗みくさって!(略)」

 俊介は、怒りと憎しみの感情を爆発させ、それを吐き出した。そして、吐き出した後、冷静になった。、

「(略)『実の息子より部屋子のほうが芸が上手(うま)い』言うのが、あの天下の二代目花井半二郎なら、もう諦めるしかないわ」
 
 冷静になった俊介の役者としての筋道の通った判断だと思う。さらに、俊介はこれから先の事を思っている。

「とにかく丹波屋の一大事。いや、関西歌舞伎の一大事や。『二人道成寺』成功させるんはもちろんやけど、喜久ちゃんがちゃんと代役勤まるよう、俺にできることはなんでもするしな」

 この言葉通りに俊介が行動できるとするなら、俊介こそが二代目花井半二郎を継ぐ役者としてふさわしいと、思う。