朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第143回2017/5/27

「(略)舞台でちゃんと生きてへんから、死ねへんねん!」

まだお初が頭の中にいる。早くこのお初を追い出して、自分がお初にならなければと、(略)

 どうすれば半二郎の境地に、そして喜久雄が求めている境地に達することができるのだろうか。
 稽古に稽古を重ねることか。それとも、観客のいる舞台を何度も踏むことか。それとも、才能や血筋なのか。
 今のままでは、病室での稽古を重ねても、半二郎と喜久雄自身が満足できるような役作りは無理だと思う。