朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第155回2017/6/6

 半二郎が、喜久雄のことをどう見ているかが、前回と今回に書かれている。
 喜久雄を今のまま東京に出しても潰れる。先が長いのだから、今潰したくはない。ここには、半二郎が喜久雄の実力を見抜いている面と、歌舞伎役者として大切に育てたいという強い気持ちが感じられる。(154回)
 今日の回からは、半二郎の世話になりだしてから今まで、喜久雄は半二郎を落胆させるようなことをしなかったとある。刺青の件でさっさと高校を辞める、俊介と一緒に祇園で遊ぶ、天王寺村の芸人横丁に出入りする、などなど心配されそうなことはあった。だが、それにもまして芸の稽古に精進していたから、半二郎は、喜久雄のことを認めていたのだろう。
 その喜久雄が、決して逆らうことなどできない半二郎を落胆させた。その理由は、人気ゆえか、それとも俊介と春江のことだろうか?