朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第157回2017/6/10

 人好きがする、なぜか憎めないという人はいるものである。徳次がそうであろう。けんかっぱやいし、嘘はつくし、騙されるし、信用のできない男だ。だが、なんともおもしろい奴だ。
 喜久雄は、常識がないし、若いながら苦労しているとしても半二郎のような苦労人にはなれそうもない。だが、人気が出る資質と運を持ち合わせている。
 マツも半二郎も春江も徳次も、喜久雄のことをいつも思っている。喜久雄は、周りの人を理由なく惹きつける男なのだろう。徳次が呼び出した件も、別の人物との関わりなのだろう。たぶん、春江でも赤城洋子でもない女と何かがあるのだろう。