朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第22回2017/6/9 第4話 眼鏡の町の漂着⑥ 第4話 了

あらすじ
 鯖江アザレアSCと倉敷FCの試合の前半は0-0だったが、終了間際に鯖江が得点し勝った。
 誠一が応援していて、香里が注目した倉敷の野上選手は後半に入り運動量が落ち、浦野という選手と交代する。この浦野が倉敷の若い選手に抜かれて、得点を許してしまう。浦野は、チームが敗れるとピッチに座り込み動かなくなってしまう。浦野を迎えにきたのが、野上だった。野上は、浦野の横に座って肩をだいて、揺すった。
 香里は息を詰めてその様子を見つめていた。
 倉敷は鯖江に敗れたが、他会場の結果から昇格プレーオフに回ることになった。誠一は、それを大型ビジョンで知る。そして、野上がもしも引退しても、自分は倉敷の試合を観続けるであろうと思い始める。このことで、ヴィオラというクラブが消えて以来、自分の行き場のなかった何かが、出口のようなものを見つけた心地がした。
 香里は、コンコースを歩きながら、マスコットのつつちゃんに挨拶していこうとマスコットたちの方へ進んだ。その通路で、一時は必死に捜していた吉原さんを見つける。吉原さんは、腕を伸ばせば届く距離を歩いている。しかし、香里は吉原さんの背中を見送った後、マスコットのさばおくんとつつちゃんのところに向かう。香里が、つつちゃんに、シーズンの間ありがとう、また来ますね、と言うと、つつちゃんは、そっと香里の背中を抱いた。
 つつちゃんのそばを離れた香里は、見覚えのある人(誠一)を見かけて、倉敷残念でしたね、と声をかける。
 眼鏡の女性(香里)は、誠一に、携帯で野上選手が引退しないというニュースを見せてくれる。誠一は、野上のことを知り、自分は自分の時間が進むことを許していいのだ、とやっと思えた。

感想
 
前回の感想では、香里と誠一の気持ちは分かるが、その気持ちとサッカー観戦とがどう結びつくのか分からない、と書いた。今回を読み、その疑問が消えた。
 若い世代が、野球に、プロレスに、テニスやバレーボールに、夢中になった時期があった。また、スポーツだけでなく、グループサウンズに、アイドルに、熱中した時期もある。芸能以外でも、時代が違えば、学校生活が、恋愛や友情が、地域の祭りが、若い世代に共通する興味関心の対象となった。
 今は、世代に共通する興味関心の対象が多様なのだろう。そして、今の若い世代の興味関心の対象の一つにサッカー観戦があるということが分かる。

 第1話から第4話までで、第4話が一番おもしろかった。
 主人公二人が、互いに名前も知り合うこともなく終わる。香里の前から消えたモトカレの消えた理由も、そのモトカレを見つけながら声もかけなかった理由もはっきりしない。誠一が、解散したクラブのことがずっと忘れられなかった理由も、その過去のクラブへの思いから抜け出せると思った理由もはっきりはしない。
 それなのに、香里と誠一が今までの自分とは違う自分を発見したことが伝わってくる。二人は、なんとなく引かれ合っている。今後付き合うようになるかもしれない。そうならなくとも、それぞれが、自分の方法でサッカー観戦を楽しむだろう。
 サッカー観戦を自分のやり方で楽しめるということは、自分の人生を自分なりの生き方で進んいくことにつながると思う。