朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第162回2017/6/16 

 描写は深入りしなかったが、どうも次の二つのことが伝わってくる。
①喜久雄は、女性に対して自分が男性であるということを誇示しようとしている。少なくとも、赤城洋子に対しては。
②喜久雄は、歌舞伎の舞台の香や香水に強い反応をする。これは、感覚だけのことではないかもしれない。

 喜久雄は、何かに悩むという様子をほとんど見せたことがない。喜久雄が物事を考える質でないのかもしれないし、そういう面を描いていないのかもしれない。
 長崎の頃、春江の母のスナックで、脱走してきた徳次と話しいる場面があった。その時の喜久雄は、煙草の箱で作った傘を弄んでいた。あの時の喜久雄は、迷っているというか、気持ちを決めかねている気配があった。
 今回の洋子とベッドにいながら、養子のことを話す喜久雄にも、迷いが感じられる。
 
 養子の件は、襲名につながる。襲名は、第七章の題名「出世魚」につながるのか?