朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第回2017/6/18
 
 このまま半二郎が治療を受けずにいると、突然の失明もあり得る。もしも、そうなったら以前の交通事故どころの騒ぎではない、花井半二郎一門が危機的な状況になる。
 半二郎が「花井白虎」の襲名どころか、舞台に立てなくなると思うと、どうしても音信不通になっている俊介のことが気がかりになる。
 半二郎と幸子と喜久雄は、俊介の居場所をつかんでいない。だが、当の俊介の方は、父や母や喜久雄の様子を知っていると思う。それは、新聞雑誌などを通して知ることができるし、それ以上に詳しく花井の家のことと喜久雄の舞台や人気の状況を知っているような気がする。
 長崎では、逃亡中なのに、徳次は喜久雄の動きを詳しく知っていた。それは、春江を介して知ったのだと思う。
 出奔した俊介のそばには、春江がいるし、花井一門のことは徳次がよく知っている。春江と徳次を介して、俊介に実家の様子が詳しく伝わっていると想像した。

 俊介に春江がついていることから、俊介が逃げ出したままで終わるような人物とはどうしても思えない。