朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第23回2017/6/16 第五話 篠村兄弟の恩寵(おんちょう)①

あらすじ
 靖(兄)と昭仁(弟)の兄弟は、奈良FCを応援し、いつも試合を観に行っていた。昭仁は、奈良FCの選手の中でも、特に窓井を応援している。その窓井が昨シーズンに伊勢志摩ユナイテッドへ移籍した。
 今年の開幕戦を、靖は今まで通りに奈良FCの試合に行くと思っていた。ところが、昭仁は窓井の移籍先伊勢志摩ユナイテッドの試合へ行くつもりだった。二人は、どちらの試合に行くかで言い争いをする。その結果、今シーズンからは、兄と弟が別の試合に行くようになった。
 靖には、付き合っている嶺田さんという人がいる。嶺田さんに、最終節の話をすると、私も行こうかな、言ってくれた。

感想
 今までの話の主人公について思い出してみる。

第一話 えりちゃんの復活
仕事にも恋愛にも行き詰った独身女性と、その女性のいとこで、引きこもりになった女子大生(えりちゃん)。

第二話 若松家ダービー
両親と違う考えを持ち始めた子と、家族(若松家)から離れていく息子を心配する母親。

第三話 三鷹を取り戻す
同級生や周囲の人の目を気にして、自分の好きなチーム(三鷹)と選手のことを言い出せない男子(貴志)。

第四話 眼鏡の町の漂着
姿を消した恋人を忘れられない女性(眼鏡の香里)と、解散した過去のサッカーチームのことを忘れられない男性(誠一)。

 それぞれの話の登場人物は、前に進むことのできない状態や心配事や不安を抱えていた。そして、それらの心の重荷を、サッカー観戦、サッカークラブの応援をきっかけとして乗り越えていった。
 現代の誰にでもありそうな悩みを、誰でもがしそうなスポーツ観戦で解消する。一話一話は、現実の社会でもありそうなできごとが起き、普通の若者の姿が描かれている。
 だが、それが重なってきて、つながりをもってくると、もっと別のものが見えてくる。
 昭和の時代では、学校生活や家庭の団らんや会社での地位を上げることなどが、多くの若い人々の共通の関心事になり得た。しかし、平成の今は、そういうことはない。年代が同じでも、互いに分かり合えることの少ない今の社会で、家族や友人や恋人同士はどうなっていくのか。
 第五話を、そういう視点からも読んでみたいと思う。