朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第170回2017/6/24

 もしも、喜久雄が常識も経済観念もある男だったら、幸子はこんなふうに胸の内をぶちまけはしなかったと思う。 
 世の中が、常識と分別がある人ばかりでは息が詰まる。喜久雄が隙だらけで、女性関係についてもだらしのない男だから、幸子のようなしっかり者が思っていることをぶつけられるのだ。
 幸子は、もうすっかり腹を決めていながら、喜久雄に無理をふっかけたのだ。
 幸子は、マツに負けず劣らずしっかりしているし、大胆に行動する。
 私の読み落としかもしれないが、俊介が幸子の実子かどうかは明らかになっていない。俊介が先妻の子であるなら、幸子とマツはますます共通するところがある。
 
 出奔した俊介がどうなるか、読者に予見をもたせることがいくつかある。
①春江と共に消えた。
②俊介は、地方巡業で辻村とつながりをもっていた。
③小野川万菊の舞台を観たときの、喜久雄と俊介の観方の違いが二人の人生を狂わせたとの表現がある。感想95回その2  感想 95回
 俊介が役者の道を閉ざされる展開になるとは、私は思えない。