朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第回2017/7/12

 第八章に入って、ようやく喜久雄の人となりがつかめてきた。
 俊介の方は、登場しないだけでなくどんな性分なのか、まだつかめない。
 俊介の性分を探ってみると、先ず役者としての素質は十分にあると思う。それは、白虎が女形の素質を俊介にも認めていることに示されている。また、性格としては気取った所や他人を見下すところがない、と感じる。それは、喜久雄や徳次、何よりも春江と深く付き合っていることから分かる。
 一方で、舞台への執着心は、喜久雄と白虎ほどにはないと思う。さらに、苦労をしていないだけに周囲の評判に負ける面がある、と感じる。辻村のように、うまいことを言ってくる他人を喜ぶところに、それを類推できる。
 俊介出奔の理由は明かされていないが、役者としての素質が十分にありながら、周囲が御曹司としてしか、自分を評価しないことに耐えられなくなったのではないか、と思う。
 
 白虎は、舞台だけに執着する喜久雄の本心を見抜いている。俊介については、何を思っているのだろうか。

 白虎が抱えている権五郎についての秘密に、このようなきっかけで触れるとは、なんとも巧みな運びだ。

「なんや、実の親父(おやじ)といるみたいですわ」

 ふとこぼした喜久雄の言葉に、白虎が顔を歪(ゆが)めます。