朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第191回2017/7/18

 喜久雄は、権五郎の死で、父を亡くしただけでなく、結局は家も財産も全て無くした。
 白虎が亡くなれば、同じようなことが起こりそうだ。幸子が信じている幸田なる新宗教の女は金遣いが荒いように描かれている。これが、幸子だけでなく白虎の家と財産を狙っていることを予想させる。
 もしも、白虎の命だけでなく家そのものが危ういとすると、家を出ているといえ、俊介にとってもますますの危機になる。
 
 『国宝』で、描かれている歌舞伎役者の稽古の様子は、フィクションではなく事実に近いことが分かった。朝日新聞「語る 人生の贈りもの 歌舞伎俳優 中村 吉右衛門」の連載の中では、吉右衛門(初代と二代目)の稽古の様子が語られている。これを読むと、『国宝』での二代目半二郎と喜久雄・俊介の稽古の様子は事実に基づいて描かれていることがよく分かる。
 また、昭和の時代には、何回も新宗教が興り、その一部は多数の信者から莫大な金を吸い取り、世の中を騒がせたことが何例もあった。