朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第26回2017/7/7 第五話 篠村兄弟の恩寵④

あらすじ 
 靖が応援している奈良FCは、最終節で昭仁が応援する伊勢志摩ユナイテッドに勝たなくてはプレーオフに行けないという状況にあった。靖は、サッカーのことで真面目になり過ぎることに気後れを感じて、付き合っている嶺田さんとは奈良FCの最終節には一緒に行かないことを決めていた。
 最近は、別々の試合を観に行っている靖と昭仁だが、この最終節は二人が応援するチーム同士の対戦なので、同じスタジアムに行くことになる。試合を観に行く準備をしながら靖は、昭仁に京都に転勤になることを告げた。それは、今まで、兄弟二人で住んでいた家を靖が出なければならないことを意味していた。

感想 
 
家族が別れる時を感じる。進学であったり、転勤であったり、家族はいずれは別々になる。その別れの時に、それまでの繋がりが改めて表面に出て来る。
 靖と昭仁の場合は、両親を早くに亡くしたせいもあるが、普通の兄弟よりもずっと強い関係で生活していたと感じる。そして、いきなりの別れではなく、サッカーへの興味の変化を通して徐々に二人は自立していったように思う。兄弟二人だけであれば、別れはいろいろなストレスを伴うであろう。でも、サッカー観戦という共通の行動と、窓井選手という独特なキャラクターの人物、それに靖には嶺田さんという女性の存在がある。どんな人間関係の変化でも、閉ざされていないということが重要なのだと思う。