朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第199回2017/7/24 

 劇評家から絶賛されて、人気が高まった時があった。代役を見事にこなして、人気が沸騰した時もあった。その時よりも、今の方が喜久雄にはふさわしい。
 喜久雄には、何の貯えもなく、収入の当てもない。ただ、恩を受けた白虎のために、幸子に悲しい思いをさせないために、憶という借金を背負った喜久雄が生き生きしてみえる。喜久雄よりも、もっと金の入る目途のない徳次でさえ、いかにも徳次らしくみえる。

「俺ら、どんだけ旦那に世話になった思うてんねん。世話になった人に借金があったんやったら、それは俺らの借金やで」


 
同じ紙面の「語る 人生の贈りもの 歌舞伎俳優 中村 吉右衛門」で、吉右衛門主演のテレビドラマ「鬼平犯科帳」のことが書かれている。これは、どこかで『国宝』の喜久雄にも繋がるのか?