朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第201回2017/7/26

 第九章が始まった。章を追うごとにおもしろくなってきた。特に、第八章は息をもつかせぬ展開だった。第八章の題「風狂無頼」の意味を、次のようにとらえた。
 後ろ盾など頼みにするところがない状況。その天涯孤独な中で、世間の常識を超越した振る舞いをする。その生き方は世の中の規範を無視しているようでありながら、人の生き方として筋の通ったものをもっていること。
 これは、第八章に垣間見ることができる主人公喜久雄の姿だと思う。
 第九章の「伽羅枕」は、言葉の意味と、尾崎紅葉の小説の題名の両方が考えられる。八章の最後に注目するなら、尾崎紅葉の『伽羅枕』にも関連があるかもしれない。

 この回も、喜久雄の生き方がはっきりと表出されている。荒風と喜久雄が遊んでいたのは、二人ともがまだ人気のある頃だった。喜久雄はともかくとして、荒風は完全に相撲の世界では敗残者となっている。体を壊し、相撲に関連する職にもつけない元相撲取りに義理堅く付き合う人は、喜久雄以外にはいないであろう。
 喜久雄は、希望を失って故郷へ戻るしかない男に精一杯のはなむけをしている。