朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第203回2017/7/28 

 気が合って、昔よく一緒に遊んだ友達がリストラされて、故郷に帰ることになった。私ならその友人の引っ越しを手伝いに行くだろうか。閑であれば、手伝いに行くかもしれない。だが、自分の仕事の合間を見つけてまで、手伝いには行かないだろう。ましてや、その友人の母親からの挨拶などはなるべく早く切り上げてくれと思うだろう。

 梅木社長は、鶴若に問われて、喜久雄の魅力を次のように言っていた。

「(略)この喜久雄が不平不満を漏らすところをまだ一度も見たことがない。(略)」(182回)

 散々に鶴若から苛められながら、万菊から何か盗もうと劇場に通う喜久雄が、上の言葉と重なる。

 私は、不平不満をしょっちゅう漏らす。また、不平不満を漏らさない人に会ったことがないような気がする。