朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第204回2017/7/29 

 昔話だが、私が三十歳台だった頃は、職場全員参加の宴会が年に何回もあった。ホテルが会場の時もあった。そのホテルで芸人や歌手の舞台を観たこともあった。芸を観るのではなく、宴会を盛り上げるためだった。そういう舞台は、盛り上がりの割には、どこか貧しく悲しい雰囲気が漂っていた。
 
 喜久雄は、無名の役者ではなく、一時は時代の寵児ともてはやされた人気役者だ。しかも、まだ若い。それだけに、徳次の怒りがよく分かる。
 この状況でも、喜久雄は不平不満を漏らさないのか?