朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第209回2017/8/3

 一人の役者だけの芸の上達が名優になる道ではないところが、歌舞伎の特徴なのだろう。歌舞伎に留まらず、古典芸能全般にいえることだと思う。伝統を守ることができなければ、歌舞伎役者としては認められない。しかし、伝統を継承するだけでもいけない。常にそういうせめぎ合いの中で、伝統を継承しつつ新しいものを創り上げる役者が名優と評されるのであろう。
 喜久雄は、いつの間にかそこに気づいていた。俊介が「山」で、自分は「一本の木」だと考えられるところが、すごいと思う。
 悔しい思い辛い経験を散々することによって、主人公が物事の本質をつかんでいく様子が鮮やかに描かれていると感じる。
 
 弁天は一端の芸人になっているようだ。弁天は、営業を紹介するだけでなく、もっと他のことをも、喜久雄と徳次にもたらすのかもしれない。